メテオ・フィーユはコップの中の嵐

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 水滴がついてくもってしまった窓を軽く手で拭く。露結した水滴はぼくの手のひらをすべり落ち、この部屋のすみっこにポタリと落ちてしまった。ぼくはそっと外の景色をのぞきこむ。  ああ、今日もメテオ・フィーユが泣いている。今日は泣かないって約束じゃあなかったのかな。  テレビのニュースでは、天気予報が7日連続で外れてしまったことを、天気予報士が画面のこちら側に向けて謝罪している。その顔は、当然ぼくらのよく知っているメテオ・フィーユと同じ顔。  こんなこともあるんだな。メテオ・フィーユが感情をコントロールできないなんてよう。  同室に住まうクウタは、ぼくと同じように窓の外をながめてからそうつぶやいた。  ぼくが生まれてから12年間、少なくともぼくの知る限りでは、1日たりとも天気予報が外れた試しなんかなかった。だって、そうでしょう。本来なら外れようがないから。彼女が自分を見失うことなんて、あり得るはずがないから。  ぼくはメテオ・フィーユのすすり泣きに誘われ、憂鬱な気分になってしまったため、少し休むことにした。  どうしたんだいメア、気分でも悪いのかい。もしかして、メテオといっしょに泣きたい気分なんだって言うつもりかな?  クウタは嫌味っぽくそう言ってくる。  そんなのじゃないよ、クウタ。ぼくは偏頭痛持ちだってこと、きみはよく知っているはずだろ?  ああ、そうだったね。メアごめんごめん。ベッドでゆっくりおやすみ。  ぼくは2段ベッドの上にはい上がって、しばらく横になった。この気象学者を育てる学校、“テンペスト・イン・ア・ティーカップ(コップの中の嵐)”は全寮制で、ひと部屋に2段ベッドがひとつ置いてあり、寮生ふたりがワンルームを仲良くシェアしている体でやっているのだけれど、夜になれば寮生のいくらかは脱走したり外から仲間を呼んだりしており、名は体を表すとはよく言ったもので、まさにここの生徒たちは“コップの中の嵐”そのものだった。  そのコップの中に閉じ込められた嵐たちは、卒業と同時に災害対策や天気予報関連の仕事に着くのだけれど、それらの仕事は12年前にぼくらといっしょに彼女、メテオ・フィーユが生まれてからというもの、ほとんどやることはなし。彼女たちの手伝いくらいなものだった。  災害なんかここ12年は起きていなかったけれど、3日前から続いているこの異常事態こそが、現在でいう災害認定になるのかもしれない。それほど、メテオ・フィーユの天候コントロールは完璧だったはずなのに。
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