父は研究者

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―――――俺が彼女と出会ったのは大学の研究室だった。 一応俺の助手みたいなことをしてくれていたんだが、俺は天才だったから、だれの助けも借りず、独学と講義をしっかり聞いているだけで、大抵のことはできた。 だから、まぁ、お茶くみとか、雑務ばかりやらせていた。 今思えば、少し可愛そうなことをしていたとも思う――――― ―――――大学では、それ以上の進展は無かったな。印象としては、なんか、犬みたいに慕ってくれていたな。研究を勝手に覗いたりとかはしなかったが。」 「え、それだけ?」 「学生時代はそんなもんだ。恋仲とか、そんなもん考えもしなかったな。」 「えぇ・・・。」 娘がじとーっとした目で見てくる。 なにか悪いことでもしていたのか? 「だからどこから話すか迷ったんだよ。」 「じゃあ、恋仲になった時の話にしてください。」 少し不貞腐れたように言う。 一体なにを期待しているんだこいつは。 「まぁ、次に会った時は印象が違っててな――――― 次に会ったのは、俺が研究者になって、助手を募集してた時だな。 経験者求むって要項にしてたっけかな。 天才の俺でも、一人きりで研究室に籠りっぱなしっていうのは寂しく感じたんだ。 それに、実際人手は欲しかったからな。 で、そこに一番乗りで応募してきたのが彼女、琴葉(ことのは)雪花(せっか)だったわけだ。 ひと目見たときは、正直わからなかったな。わかったのは声を聞いたときか。 声だけは特徴的だったんだ。透き通った声というわけではないんだが、なんだか、スカーフかなにかで包まれるような、優しくて暖かな声だったんだ。 学生の頃を知ってたからな。即採用した。 それからの日々は、いやに楽しかったな。 あの頃から、お茶を淹れるのが上手かったんだ。そして、身のこなしが学生のときと全然違ったな。動き一つ一つが洗練されていて、無駄のない、美しい動きになっていた。 俺が惹かれ始めたのは、その動きからなのかもな。 確実な好意に変わったのは・・・そうだな・・・。 俺が宗教やオカルトに手を出し始めた頃だったか。
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