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父は研究者
無機質な機械音のみが部屋に響いている。
助手は今日は休み。今日は自分一人でできる研究を、マイペースにできる。そんな平和な一日のはずだった。
予期せぬ訪問者・・・というわけでもないのだが、生憎今日も一人にはなれないらしい。
「今日は、一人でのんびり過ごせると思っていたんだがな。」
「ごめんなさい。お父さん。」
後ろに存在を感じて、振り返る。
ロングヘアに和服っぽい服装。少し俯きがちな瞳が、眼鏡のレンズを通して少し大きく見える。ここまでの特徴までなら、普通の女の子なんだがな・・・。
彼女は、体が少し透けていて、宙にふよふよ浮いていた。
「謝る必要はないさ。娘と話すのが嫌いな父親はこの世にいないからな。」
「ありがとうございます。お父さん。」
申し訳なさそうな表情から、少しの笑顔が溢れる。
「お前もコーヒー飲むか?ブラック以外は認めないが。」
笑いながら言う。
もちろん冗談だが。
「そうですね。たまにはいただきましょうか。」
「そんじゃ、淹れるとするか。」
インスタントコーヒーの粉をコップの底に溜まる程度に入れ、お湯を注ぐ。
無機質な部屋に、液体が注がれる音が響き渡る。
コーヒーを淹れるのは、この音が聞きたいというのが大半の理由だったりもする。
もちろんコーヒー自体も好きなのだがね。
「おまたせ。」
「ありがとうございます。相変わらず苦そうな色をしていますね・・・。」
渋い顔をしながら言う。
失礼なやつだ。これがいいんだろうが。
「嫌なら飲まなくてもいいぞ。」
「嫌でも飲んじゃうんですよ。」
「まぁそうだろうな。」
ケラケラと笑う。愛する娘とのスキンシップはいつだって楽しい。
しかし、今日は一人だからタバコも気軽に吸えると思っていたのだが、娘は二人とも、特に今話している妹の方はかなり毛嫌いしているもので、とても目の前で吸えたもんじゃない。
咥えタバコでもしておくか。
自前のタバコをマスクの隙間から差し込み、口に咥える。
「で、今日はなんの用なんだ?」
「あー、えっとね・・・。」
なんだか言い淀んでいる。二人とも昔から嘘をつくのが下手なんだよな。すぐに顔に出る。
「お母さんとの馴れ初めって、聞いたことなかったなーって。」
なんだ、そんなことか。
「話す機会がなかったからな。」
ライダーに手を伸ばす。娘が怪訝な眼差しを送ってくる。
「さすがにこの話はタバコなしじゃ語れねえからな・・・。」
フーっと、煙をマスクの中から吐き出す。
いろんな部分から煙が出て面白いんだなこれが。
「さて、何から話すかな・・・。」
「やっぱり出会いからでしょう!」
口元は服の裾でしっかり抑えているが、らんらんとしている瞳は、乙女特有のそれだった―――――
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