転機

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【BLUE MOON】を出て、一人重い足取りで帰路に着く。 綾人さんの言葉が、何故だか胸に引っかかって離れなかった。 暗示をかけているって、俺がいつそんなことをしたというのだ。 だって俺の思いはどれも本心だ。 偽りなんかない。 俺は歌が嫌いなんだ。 歌なんてものは、自分の足枷にしかならない。 「……ん?」 その時、何処からか耳に入ったメロディに足が止まった。 なんだろう、これは。 ひどく、胸を締め付けられる。 暖かく優しい、まるで陽だまりのようなメロディに包み込まれるようだ。 こんなメロディは知らない。 こんな歌声は知らない。 いつもなら耳を傾けもしないはずが、気付けばメロディが聞こえる方へ、足を向けていた。 足早に階段を登るとそこは、小さな広場になっていた。 中央にベンチが1つ置かれていて、下に広がる街を一望できる。 ひんやりとした風が頬を撫でた。 自分の体が火照っていることに気付く。 秋のこの季節に、汗すらかきそうだ。 そのベンチに、そいつはいた。 ギターを手にして、メロディを奏でる背中に釘付けになる。 そして次には、その肩へ手を伸ばしていた。 「おいお前…!!」 「ぎゃぁあああああっ!?」 突然のことに驚いたのだろう。 悲鳴と共に飛び上がった相手が此方を振り返る。 色素の薄い髪の毛。 猫のようなアーモンド型の瞳。 年季の入ったギブソンのアコースティックギター。 相手が誰だか気付いた瞬間、奏一はその目を見開いていた。
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