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歌なんて、嫌いなはずなのに…。
なんだこれは…。
ひどく、心が揺れる。
「なんなんだ、お前…」
「いやそれこっちのセリフ!」
ビビったぁ、いきなりなんだよぉ。と不満を漏らす真琴を、奏一は呆然と眺めていた。
あの歌声は、こいつだったのか。
あんなメロディを、この野良猫野郎が奏でたというのか。
困惑し言葉を失っていると、ギターをしまったそいつが此方を見た。
無意識に肩に力が入る俺に、そいつはやがてカラッと晴れた空みたいに屈託のない笑みを浮かべる。
「そっか。お前も歌、好きなんだなっ」
「…っ!」
瞬間、俺は相手の胸ぐら掴んでいた。
「え!?ななななに!?」
「……」
「や、やんのかこんにゃろー…!」
シャーッとファイティングポーズを取る真琴。
しかし胸ぐらを掴んだまま黙り込んでしまった奏一に、真琴は訝しげな視線を向ける。
やがてその手を解いた奏一は、静かに尋ねた。
「…お前、名前は」
「え。み、御厨真琴」
「……」
次には奏一は背を向け、階段を降りていった。
「お、おーい?」と声をかける真琴を無視して、その場を後にする。
胸騒ぎがする。
何かが変わり始める予感がする。
高校1年、秋。
この出会いが、俺の人生の転機となった。
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