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奏一の父は音楽界では名の通ったサックス奏者。そして母はピアノの講師をしている。
そんな音楽一家であるが故に、奏一は歌の才能があると見込まれてから日々英才教育を受け続けてきた。
しかし今の奏一は、頑なに歌を拒絶し続けている。
親の期待、周りからの声、その全てが煩わしい。
「今日は遅刻じゃねーのな」
「実はいい近道見つけたんだ!」
「どーせまともな道じゃねぇだろ?」
「お前ってほんと猫みたい」
賑やかに会話をしながら廊下を歩いていく御厨真琴を、俺は横目で見遣った。
学校にいる時、あいつの周りにはいつも誰かがいる気がする。
それもいつも同じ相手ではない。
男女関係なく会話しているようだった。
至って普通の生徒から、チャラチャラしたやつ、いかにも真面目そうなガリ勉、キャラクターのストラップをジャラジャラさせたオタク、ド金髪であちこちにピアスを付けたヤンキーなど、色んな相手と親しげだ。
「どうした?奏一」
声をかけられ、顔を向ける。
椅子の背もたれに向かい合う形で座り、俺と対面している佐多陽介は、不思議そうな顔をして俺を見ていた。
こいつとは中学からの知り合いで、小中高と野球部所属という野球バカだ。
短めの黒髪はスポーティで、そのさっぱりとした顔から「爽やかイケメン」と言われているのをよく耳にする。
人気もそれなりにあるようで、こいつと話していると周りの女子からの視線が鬱陶しい。
といってもそれなりに気が合い、高校に入った今でもよく一緒にいることが多かった。
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