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「くそっ、用意周到すぎるだろ!」
そう言って嘆く真琴。
すると次には、背後からコツコツと革靴の音が聞こえてきた。
「やだなー、なんで逃げるの?」
その声に真琴は顔を歪める。
俺はただこの状況を眺めていることしかできない。
「…何しに来たんですか」
「何しにって、今更なにとぼけてんのさ。俺は真琴に会いに来たんだよ」
「…伊織さん。もうこんな関係やめましょう。俺はこれ以上続ける気はありません」
「関係を切る?ははっ、そんなこと許すわけないじゃん」
そう言って笑みを浮かべる男は、真琴に向かって両腕を広げる。
「ほーら、こっちおいで?」
その呼びかけに、真琴はブンブンと首を横に振った。
しかし構わず目の前に来た男は、強引に真琴の腕を掴み引き寄せる。
顔を逸らす真琴だったが、顎を掴まれ2人は至近距離で見つめ合った。
「真琴、俺からの連絡無視してただろ?そんなにお仕置きが必要か?」
「…っ」
真琴の瞳に明らかに怯えの色が滲んだを見て、俺はようやく動き出した。
咄嗟に相手の腕を強く掴む。
「おい、何してんだッ!」
「…誰?お前」
冷めた瞳で此方を見る男を睨み付けた。
しかし相手はすぐ此方に興味をなくしたように視線を逸らし、にっこりと笑みを浮かべて真琴を見る。
「ほら、真琴。乗れよ」
そう言って黒の高級車に促す男に、真琴は一度俺へと顔を向けた。
何かを考え込むようなその表情に、俺は「真琴…?」と無意識に名を呼ぶ。
しかしその視線は逸らされ、真琴は小さく呟いた。
「……ごめん、奏一」
「は?」
次には真琴が車へと乗り込んでいく。
俺はわけが分からずそれをただ見つめていたが、次には慌てて口を開いた。
「おい真琴!?」
声は届いているはずなのに、真琴は此方に顔を向けない。
続いて男が乗り込み、黒スーツの男がドアを閉めてしまう。
俺が引き止める隙もなく、車はその場から走り去っていた。
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