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(ごめん…、奏一…)
外を眺めながら、真琴は心の中で呟いた。
驚愕の表情を浮かべていた奏一を思い出す。
あんな置き去りにするような真似をして、きっと腹を立てているはずだ。
申し訳なさと、嫌われてしまったのではという怯えに唇を噛む。
「俺を避けてたのは、さっきの男が原因?」
「…っ」
軽い調子で尋ねられ、息を呑む。
自分が奏一を置き去りにするような真似までして伊織さんに従ったのは、奏一に危害が及ばないようにする為だ。
この人なら、邪魔だと判断した相手に何をしでかすか分からない。
伊織さんは大切なものが欠けてしまっているのだ。
あの日、兄ちゃんが消えてしまった時から…。
「……別に、関係ないよ。俺が個人的に、もう終わりにしたいと思っただけ」
「だから、そんなこと許すはずないでしょ。それは真琴が一番分かってるはずだ」
「……」
やがて車は高層マンションの駐車場へと入って行った。
見慣れたその場所に車が停められ、次にはドアが開けられる。
俺は一瞬身を固め、次には観念して外へと出た。
すぐに側にやって来た伊織さんに肩を抱き寄せられる。
無意識に振り解こうと動いた手は、すぐに力なく下された。
そのまま俺たちはエレベーターへと入って行く。
「お前たちはここまででいい」
「分かりました」
従えていた黒スーツを残して、2人だけとなったエレベーター内。
居心地悪く俯いていれば、不意に顎を掴まれ顔を上げさせられた。
そして抵抗する暇もなく唇を重ねられる。
「ぅ、んん…っ」
頬を強く掴まれ、強制的に舌を入れられた。
無理やり絡め取られる舌に、ギュッと眉を寄せる。
そのままどうすることもできずに耐え続けていれば、やがてエレベーターが目的の階へ到着した。
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