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そう自覚したと同時に、上に覆いかぶさっていたヤツが弾かれるように俺から離れた。
そして「うえー!」と舌を出して悶え苦しんでいる。
俺も俺で気持ちの悪さに口を覆った。
「ちょっと真琴!何やってんのよ!?」
「い、いや、木の上で寝転がってたら寝ちゃってて」
「自由人か!」
「ほんとバカなんだから!しかも奏一くんの唇を奪うだなんてー!」
そこでやっと、降って来た相手の顔を見る。
色素の薄い柔らかそうな髪の毛に、大きなアーモンド型の瞳。
こいつ、確か朝の…。
「…野良猫」
「はい?」
口に出ていた言葉に、真琴と呼ばれた男子生徒が首を傾げた。
しかし次には、「あぁ!!」と大きな声を上げ、背負っていたギターケースを下ろしだす。
「やべー!傷ついてないよな!?」
酷く慌てながら、そいつはケースからギターを取り出した。
やや大型のボディのアコギで、ドレッドノートだろう。
ナチュラルカラーでローズウッドサイド。
それなりに年季が入っているが、手入れは行き届いている。
「──ギブソンか…?」
呟いた瞬間、顔を上げたそいつが食い入るように俺の顔を見つめてきた。
その視線にも、呟いていた自分にも驚く。
そしてすぐに後悔した。
これ以上は、触れてはならない。
頭の中で警告音が聞こえてくる。
これ以上はダメだ。
これ以上、踏み込まれるな。
そして俺は、殆ど無意識にその場から立ち去っていた。
後ろから女子生徒たちの声がするが、知ったことではない。
先程真っ直ぐに見つめてきた大きな瞳が頭から離れない。
危険だ。
あいつは、酷く危険だ。
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