虹を架けるための

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 空が青かった。  センター近くの人気のない川べりに寝ころび、空を見る。すぐ隣は菜の花畑。空を見上げた視界の隅で、黄色い光が揺れる。  土の香りが風の向きと強さによって、時々ふわっと立つ。今日は自分まで干されてしまいそうないい天気だから、昨日の夕方に降った雨が蒸発し、空に飛び立つ前に、土の粒子を香りとしてばらまいているのかもしれない。  太陽の光のあまりの強さに目をつむる。瞼を通して、光の熱と色だけを感じる。昨日の夜は寝るのが遅かったから、このシチュエーションは恐ろしく眠気を誘った。  土の香りが茶色に、菜の花の香りが鮮やかな黄色になり、うとうととする私の意識のなかで、抽象絵画のようになる。もはや土と菜の花だと分からなくなった色だけが、キャンバスで楽し気に踊る。  そして、茶色と黄色の絵の向こうに透けるように、人の存在が見える。 「ひなた」  私は呼びかける。でも、その人には羽が生えていて、抽象絵画の茶色と黄色のあいだを縫うように、滑らかに飛び去り、見えなくなった。 「こんなところで寝ていたら、鼻の頭が真っ赤になっちゃいますよ」  目を開けると、朝日くんが私を見下ろしていた。ひなたがあのまま大きくなったら、こんなふうになっていたんじゃないかと思わせる男の子。最近、ひなたのことをよく思い出すのは、朝日くんのせいだと思う。 「そうだね。でも、気持ち良かったな」  私は立ち上がって、伸びをした。
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