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 おひとり様キャンプイベントは2泊3日だったけれど、女性である私は、夜は家に帰り、明日の朝からまた合流して手伝いをすることになっていた。夜はセンターの宿直室に朝日くんと乾さんが泊まる、と。私も昨日まではそのつもりだった。でも、気持ちが変わった。 「私も参加者の気分を少し味わいたくなりました。予備のテントを自分で張るので、公園内で寝てもいいですか?」  夕方センターで乾さんに訊いた。他のスタッフは外に出ているか、すでに退社していて、センター内には乾さんと私だけだった。 「まぁいいけど。……どうした?」  自分もイベントに参加したいだけだと白を切り通すことはできなかった。私は座っている乾さんを立って見下ろすようにして言った。 「このあいだ野鳥観察舎のところで言った話……あれ……朝日くんのことだったんですよね?」  乾さんは座ったまま、私の目をじっと見た。肯定も否定もしなかった。でもそれが、肯定の答えだと思った。 「乾さんは初めから分かっていたんですか?」  その質問に乾さんは観念したように頷いた。私は目をつむった。自分から聞いたことなのに、答えを知りたくなかったと思った。 「たまにね、迷い込んでくる人がいるんだ。ここに。……自分が死んだことをまだ受け入れられていない。そして、自分が強い悔いを残していることにも自覚的でない人が、普通に生きているつもりで、この辺りまで歩いて上ってくる」 「強い悔いを……」  朝日くんの悔いって何だったのだろう。朝日くんは自分にはそんなに強く後悔していることなんてないと言っていたけれど。 「彼の悔いは、もっと自由に生きたかったということだ。……彼は、バックパッカーをしていたわけじゃない。親に言われた通り、頑張って勉強して、いい学校に入って、さらに勉強して、東大を目指していたけれど、受験に失敗して、すべり止めだった大学に入った。今まで頭がいい、良い子だと言われていた人間の大きな“失敗”だった。彼は自暴自棄になり、大量のお酒を飲み、事故を起こした。……それで、亡くなった」  雅也の死を知ったときと同じか、それ以上の衝撃が走る。この仕事を一年してきて、死が身近になった、死を悲しいものではないと思えるようになったなんて嘘だった。  私はただ、時間の経過によって、雅也との思い出を薄れさせ、心の奥に沈めたに過ぎなかった。  私はこれから朝日くんともっとたくさん楽しい企画を考え、実行し、この公園を盛り上げていこうと思っていたのに……。  手の甲に涙が落ちた。でも乾さんはずっと表情を変えなかった。それは乾さんが最初から朝日くんの“死”を知っていたからではない、きっと。 「でも、彼はしあわせだと思うよ。彼は死んだあと、自分の力で“後悔”をすべて拭い去ろうとしている。本当はやりたかった自由気ままな旅を楽しんでここまで辿り着き、最後は、“もっと人のいいなりにならず、自分を生きられれば良かった”という後悔を人にさせないよう、こんな企画まで立ち上げた。……すごいよ」  乾さんがいつもと変わらず穏やかに話せば話すだけ、私の目からは涙が止まらなくなる。それでも私は言った。 「そうですね。……すごいです」
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