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貴志と昌也が大通りを曲がり、小さな裏通りに入ると、急に静かな商店街通りになった。商店街通りといっても、賑わったのは一昔前の話で、今となってはその殆どの店が閉店し営業しておらず、錆びれた感じの通りへと変わってしまっていた。
二人が歩いていく先には、たこ焼き屋が見えてくる。
『たこ焼きハウス エリーゼ』の看板があった。
そこから男女カップルが出てきたかと思ったら、何やら深々と頭を何度も下げ、そのカップルをたこ焼き屋のおばさん店主が笑顔で見送った。
その様子に貴志たちは足を止める事もなく、立ち去っていく男女カップルと入れ替わりで、今度は貴志がたこ焼きハウスへ入っていった。
店の入口で立っている店主の横を通り、何も言わずに入っていく貴志。
店主のおばさんは、振り返り貴志を見ながら、
「おいおい、何も言う事はないのかい!」
と投げかける。
その後から付いてきた昌也は、店主のおばさんの前できちんと立ち止まり、
「おばさん、こんにちは!」
と挨拶した。
店主のおばさんも、昌也の顔を見ながら、ニコリと笑顔で返した。
「あら、こんにちは、昌也! いつ見ても男前だねえ。」
そう言ったかと思うと、たこ焼き屋の奥へと消えていく貴志の姿を怖い顔で睨みつけながら、
「それに比べて、うちの貴志は、愛想もクソもないもんだ。」
昌也は、苦笑いしている。
再び、店主のおばさんが話しかける。
「昌也、うち寄って、たこ焼きでも食べて行くかい?」
「あ、いや今日は、このまま帰ります。また来させてもらいます。」
昌也は、笑顔で頭を下げた。
「そうかい。じゃあ、またおいで!」
店主のおばさんに見送られながら、昌也は立ち去っていった。
そして店主のおばさんは、貴志の後を追いかけるように、店の奥へと駆け込んでいくのだった。
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