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俺は仁花の命を救うため、令和元年7月14日午前11時12分を何度も繰り返している。
彼女が刺される5分前。俺は高松家の最寄駅に送り込まれ、真夏の住宅地をひた走る。横断歩道を渡り、3軒目の青い屋根が仁花の家だ。玄関に鍵がかかっていることを知っている俺は、門扉から直接、庭にまわる。
間に合え! 今度こそ救けるんだ!
祈るような気持ちでリビングに飛び込む。
炎天下を走り続けてチカチカする目に映るのはいつも、血を流して倒れている仁花の姿だった。鼓動で破裂しそうな胸が、引き裂かれるように痛む。
「間に合わなかった…… 」
そこで俺は現実世界に引き戻され、彼女のいない無機質な部屋で、無力感に打ちひしがれるのだ。
もっと速く走ろう、道を変えてみよう、途中で犯人を待ち伏せできないだろうか。俺がいくら試行錯誤しても、運命は変えられない。最後に見る光景はいつも、床に倒れた仁花の姿なのだった。
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