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俺は仁花のことをよく知っている。生まれた時から、いや、生まれる前からだ。
仁花の両親は学生結婚で、卒業間際に授かった子どもに大喜びした。母親が大きなお腹で出席した卒業式では周り中から祝福され、彼女を真ん中にして撮った記念写真は、事件の日まで高松家の玄関に飾られていた。その写真で笑顔を見せる人たちの誰も、まさかその子が15歳の誕生日を迎えられないなんて、想像もしなかっただろう。
仁という字には人を思いやるという意味がある。仁花は両親の愛情をいっぱいに受け、名前に込められた願いのとおりの優しい娘に成長した。事件のあった日も、自分は寝ているから大丈夫と言って、歳の離れた弟妹が楽しみにしていた遊園地へ家族を笑顔で送り出してくれたのだと、両親は涙ながらに法廷で証言した。
仁花は学校ではテニス部に所属し、成績も良かった。得意科目は英語と歴史。友達が多く、後輩にも慕われていた。彼女の訃報が伝えられた朝の体育館は、号泣に包まれたという。
もしもあの日殺されたりしなければ、仁花はどんな人生を送っただろう。俺はそれを幾度も思い描き、彼女を救えない自分の不甲斐なさに奥歯を噛み締めた。
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