アブラカタブラ

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サイトの他に、スイは別の仕事も同時進行でやっていた。 1週間ないし1か月帰ってこないことはザラだ。 北京のローカルアパートに半月ぶりに帰ってきたスイは半袖シャツにプリントTシャツとカジュアルな格好だった。でもブランド物と一目で分かる。黒い髪はサイドを刈った短髪にしている。金を持っていそうな大学生ってとこだな。 毛玉だらけのスウェード織のソファで惰眠を貪っていた俺はのそりと起き上がり「おかえり」と日本語で迎える。 スイは微笑んで、澄んだ湖のような目をたわませる。濁った水に住んで人の生き血を啜るヒルみたいなヤツだってのに。スイは「ただいま」って言って、湯が出たり出なかったりするシャワーを浴びて、しばらくまたパソコンに向き合っていた。 これまたすぐ砂嵐に見舞われるテレビを流し見していると、スイが 「ちょっと場所空けて」 ってソファの前に立った。足をおっ広げてだらしなく寛いでいた俺は少し隅に寄る。 スイはおもむろにソファに寝転んで、頭を俺の腿に乗せてきた。 「どけよ」 スイは俺の方を向いて横になった。無視かよ。 勝手に俺の手を取って頬に当てているし。ご丁寧に貝殻つなぎで。 「どけっつってんだろ」 ん?って顔を見せたスイはふにゃりと笑って、不覚にも心臓をギュッと掴まれた気がした。 「何か変わったことあった?」 スイは手を握ったまま目をこちらに向ける。 「出たよ、海賊版が」 「ああ、思ったより早かったね」 いつのまにかまったく同じものを載せたサイトが出来ていた。しかもこちらよりも安価な利用料で。動画をコピーできないようにしておいたのに、鍵を開いてぶんどっていった。あまつさえSNSや掲示板でこちらが偽物だと攻撃してくる。盗賊か。 「どうする?」 「放っておいて」 「拡散は?」 「今まで通りでいいよ」 スイの中でこの話は終わったらしく、そのままうとうとし始める。 「ベッド行けば?」 「しばらく貸してよ」 「1分1万な」 「ひどい」 でもどく気はないらしい。ほかっといたら寝落ちしてた。ガキみたいに無防備な寝顔だ。いや、ガキだったな。こんだけタッパがあってまだティーンとかふざけてる。 俺は優しい彼氏なんかじゃないから、起こさないように抜け出すとそのまま寝かせておいて、ベッドを独り占めしてやった。久しぶりに帰ってきたってのにさっさと寝ちまうからだ。 セミダブルのベッドは2人では狭い。でも、1人だとやたら広く感じた。
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