蓮華の人よ その②

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いつもはなんとも思わないのだけれど、一緒にいた時間が長かったせいか、少しその後のことを調べてみた。あの人は行方知れずだったけど、息子さんが横浜のお店で働いている事が分かった。 ボーイズクラブ『帝愛妃』 中華街の片隅にある、後宮をイメージした風俗店。変わってるね。興味が沸いて、お店に行ってみた。 雷紋や唐草模様といった安っぽい中華風のネオンの装飾が施されたビルに入れば、外見の胡散臭さとはかけ離れた、後宮をイメージした絢爛な内装のロビーに出迎えられた。もちろんあの子を指名する。 それから皇帝が側室の閨に向かうように、キャストのいる部屋に通された。 目を見張ったよ。天蓋付きのベッドとか本格的な調度品ではなくて、そこで待っていた彼に。 黒く長い髪はつやつやとして、白い肌や貴妃服とのコントラストが見事で、赤い紅を挿した唇と目元が官能的だった。頭の両サイドに蓮の花飾りが飾られている。 彼は、僕がここに堕としたようなものだ。底無し沼の泥の底へ。でも、そこから空に向かって茎を伸ばし咲き誇る花のように、彼は凛と僕の前に佇んでいる。泥の中で腐ることもなく。 久しぶりに、焼けつくような衝動に駆られた。 コレが欲しいって。 様子を見にきただけなのに、僕は彼を抱いてしまった。底無しの沼に溺れたのは、僕の方だ。 彼は高値の花(・・・・)で、通うのは中々大変だった。 同時進行で色んな仕事をしていたから、毎回違う格好で行ってたけど、「前にも来られていませんか」って聞かれてビックリした。その観察眼にも驚いたけど、仕方ないことだ。だって、彼の前では気が緩んでしまって、素を出さないようにするのが大変だったから。 店に通ううちに、近々警察の手が入るとの情報を掴んだ。嫌だ。彼は僕のだ。誰にも渡さない。 逃走経路や必要なものの調達はいつもより綿密に計画したけれど、僕にしては随分無茶をした。 ずっと気が張ってて、警察官に混じって店に入った時なんか心臓がバクバクしっぱなしで、彼の顔を見たら緊張感が高まると同時に胸がいっぱいになってはち切れそうになった。 ようやく、僕のものになるんだって。 車に乗って人気のないところまで走らせると、我慢できず貪るように彼を抱いた。本当は計画になかったし、もっと優しくしてあげたかったんだけど。 無事客船に乗って中国まで渡れたのは奇跡だね。 日頃の行いがいいせいかな。 ほとぼりが覚めるまで遊んでいたけど夢のようだった。彼は僕の仕事を受け入れてくれていたし、お店と違って時間に縛られず一緒にいられる。 彼が随分口が悪いのには少し驚いたけど、些末な事でしかなかったし、セックスする時は甘い声を聞かせてくれた。 だから、仕事とはいえ他の人とセックスした時は悲しかった。あと、恋人だと思っていたのは僕だけだったみたいだ。ダメだよ。そんなのは許さない。 「レンは僕の恋人なんだからね」 後ろから責めたてて、グチャグチャになかせて、そう吹き込み身体に教え込ませていく。 「わかっ・・・わかったからぁ・・・」 呂律が回らなくなって必死に答えようとするのがかわいくて仕方ない。 物欲しそうに僕の方に振り向く。噛んで欲しいのかな。いつもそうしてたから。 頭を撫でてあげた。おねだりできたらそうしてあげる。 「・・・噛んで」って傷ついた獣のような目でレンが言う。ちゃんと言えたからそうしてあげた。 すぐに達したレンは、少し腫れた目蓋を閉じて意識を失ってしまった。涙の跡や精液や汗に塗れても、レンの白い横顔は女神様みたいに綺麗だった。 頸に刻んだ歯形をなぞる。閉じられた長い睫毛が揺れて、僕の名前が花弁のような唇から漏れた。 (レン)はもう、僕のものだ。 end
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