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元より、陽珠はこの祭りに顔を出さねばならなかったのだ。両親が亡き今、まだ若い陽珠に根拠なき期待と羨望、妬みや責任、義務などが、全て集まって重くのしかかっている。
空は、まだ僅かに紅い。そこからぶら下がる煌めき始めた星々が、じっと彼を見つめていた。
◇
辿り着いたのは、棚田が広く見渡せる高台にある神社だった。息も切らさず、陽珠は境内の中に設けられた舞台へ足を進める。
舞台の上には三人の巫女が居た。居るというよりかは、在ると言う方が正しい。巫女は右へ左へと回転し、徐々にその身のこなしは速くなっていく。
陽珠は、夜が落ちて色を失くした曼殊沙華を視界の端に捉えた。開ききった豪奢なその花は、ひと夏限りの花火のように広がって、その上にはほおっと白い光が灯っている。
この時期になると、先祖が村に帰ってきて花に宿るとの伝承があったが、それを直に感じられる者は陽珠一人。陽珠は特別な家の生まれだからだ。
祭りは本格的に始まり、一人、また一人と田んぼの畦道から参道を通って村民が集まってきた。
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