第五章 三.

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「お待たせいたしました、ホットレモンティーになります」 彼女が注文した飲み物が運ばれてきた。 「はい、私です」 「ごゆっくりどうぞ」  伝票を置いたウェイターが笑顔でいうと、そのまま他の客の方へと行く。さっそく、カップを口に運びながら瑞樹が侑斗を見る。 「今日は二俣さんが仕事の話を持ってきてくれるっていうから来たんですけど」 「うん、そうだよ。東京十社、分かるでしょ? 神田明神の……、宮司の娘さん、どこにいるか知ってる?」 「え? あー……、神谷(かみや)さんね。神職だから神田明神にいるはずですけど」 「そうなんだ。この前行ったときはいなかったから気になって。巫女の特集とかどうかと思ったんだけどなぁ」 「きっとどこかへ出かけていたんでしょう。神職っていえば、この子も最近じわじわ人気が出てますよ」  瑞樹が出した写真は、スナップショットと思われるもので、巫女服姿の女の子が竹箒を持っているものだった。 「品川神社の洲崎(すさき)天芽(あまめ)さん。女子高生巫女さんっていうキャッチコピー」 「明坂さん、こうやって素人を発掘していくの好きだよね。さすが雑誌編集者」 「道行く人みーんなに目を光らせてますからね。ピンときた人は二俣さんみたいに取材させてもらえないか、スカウトしちゃうんです」 「いきなり声かけられて対応する人って少ないんじゃない?」 「そうなんですよ! だから最近はあまりいい記事が書けなくて。二俣さんにもインタビューしたいって言ってるのにNGでしょう。絶対反響ありますよ?」 「ダメだよ、僕はそういう人じゃないから」  写真をもてあそぶように、指先をトントンさせながら彼が笑う。瑞樹から見れば謙遜の笑みだが、また別の人が見れば、今後の計画を実行に移すことを決意したようなたくらみも感じさせるものだった。
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