第六章 一.

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第六章 一.

 鳥居近くで大声をあげる男性に、沙雪と蒼早が近づく。 「……本当に取り押さえるの?」 「沙雪がやんなきゃ誰がやるの」 「そうね……がんばる」  いくら大人とはいっても、やはり自分より力がありそうな男性を相手にするのは避けたいところだ。だが、今はそうはいかない。 「あの人を橋の上まで連れて行こう」 「どうやって……」 「押して」 「えっ!?」 「もしくは、あえて喧嘩をふっかける」  なかなか物騒な提案である。 「蒼早くんがするの? できる?」 「は? 僕をなんだと思ってるの? 子供じゃないから」 「でも、そしたら私が一人で橋の上にいることに……」 「喰代がいるでしょ! やるの?! やらないの!? どっち!?」  行こうとする蒼早の腕を掴んで引き留めた沙雪に対し、彼は苛立ったように尋ねる。沙雪はもごもごとしながらも、ようやく決意したようにうなずいた。 「や……ります! やる!」 「フン、最初からそう言えばいいのに。さっさと行って」 「は、はい……」  小さく言いながら、橋の方へと急ぐ。
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