第六章 一.

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 汐吉が名前を叫ぶが少し遅く、彼は沙雪を突き飛ばすと地面に倒し、馬乗りになった。 「松浪さ、チッ」  汐吉は橋の上へと走っていく。沙雪は必死に松ヶ枝が顔を殴ろうとしてくるのを腕でかばうしかできない。眼鏡も顔からずり落ちる、というところに、汐吉はなんとか間に合った。 「こんの、野郎!」  背中から松ヶ枝の肩を掴むと、はがすようにして後ろ向きに倒そうとする。しかし、彼は動かない。死気の黒い煙は両手と両足首から出ていた。  汐吉は迷いなく両手を松ヶ枝の手首へ伸ばす。 「っ、はっ!」  黒い煙が消えたのを確認すると両手首をつかみ、後ろへもう一度引っ張る。今度は姿勢が揺らいだ。見逃すことなく、体勢を崩した彼の足首に両手を伸ばす。黒い煙が空中にとけるようにしてうっすらと消えていった。  彼に抵抗していた松ヶ枝も、暴れるのをやめて眠るように横たわる。 「はっ、はあ、は……、松浪さん、大丈夫か」 「え、ええ……、ごめんなさい、私」  別のことを考えていたから、こうなってしまった。  落ち込む沙雪に、汐吉は松ヶ枝のそばでしゃがみ、彼女に目線を合わせる。
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