第六章 一.

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「ちゃんと“拘束”は効いていた。でも、考え事をするなら、椅子に座ってゆっくりできるときにしたほうがいい」 「……そうね」  素直にうなずく沙雪を見て、汐吉も息をついて立ち上がる。 「店長―! おじさま来ましたよ!」 「汐吉! 大丈夫か!」  紅乃と真菅、そして若葉も一緒に鳥居をくぐって神社の敷地内へと入ってきた。  若葉は、横たわる松ヶ枝を見て一瞬青ざめたが、胸が上下していることで生きているとわかり、少しだけ安堵した表情になる。 「ああ、えっと、松ヶ枝さんが死気に。たぶん今は眠ってる」  水品のときと同じパターンだった。そして、起きれば記憶がないだろう。 「あの、マツさんはどうなったんですか? なんで、あの人急に……」 「今朝から様子がおかしいって言っていたけど、具体的にどんなふうだったんだ?」 「えっと……」  汐吉に聞かれた若葉は、思い出そうと少し上を見た。 「昨日、電話で朝から本殿の掃除の手伝いに来てほしいっていわれて。いつもお世話になってる方だし、断る理由もないので一〇時に来たんです。来た時はいつも通りだったんですけど、一時間たった後くらいから、暴言が多くなって、ご家族の方を蹴り飛ばしたりするようになって……、ぼくは、力がそんなにないので、抑えるとかはできなくて……」  なんとか身内で済ませようとしたらしい家族を、松ヶ枝は蹴り飛ばし、殴り、それは老爺とは思えない力だったという。
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