第六章 一.

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「マツさんは、どうして急に暴れたんでしょうか。ぼく、そんなにいけないことをしたのかな……」 「いけないこと?」 「……悩みがあって、相談してたんです。神様に頼んだら、嫌なことを全部解決してくれるのかなって。神頼みで、自分を守ろうとしたのがいけなかったんでしょうか」  若葉に何があったのかを、松ヶ枝以外は知らない。居合わせた面々は分からない、というように首を横にふった。  そこへ救急車の音が聞こえてくる。 「私が呼んでおいた。念のため、検査してもらおうと思ってな。藤枝若葉さん、後日お話を聞きに伺います。今日はここで失礼します」 「わ、わかりました」  真菅が頭を下げ、若葉も同様にペコリと会釈をする。彼は他の捜査員に刃物の回収や松ヶ枝の家族へ話を聞くよう指示を出す。  そして、若葉はというと、松ヶ枝を乗せた担架と運ぶ救急隊員を心配そうな目で見つめていたが、気持ちが落ち着いたのか汐吉たちのほうを見た。 「あの、ご迷惑おかけしてすみませんでした」 「いえ、誰も怪我しなくてよかった」 「そういう沙雪は大丈夫なの?」 「うん、全然。お尻がちょっと痛いくらい」 「腕は?」 「平気よ。全然痛くない」  沙雪は本当に平気そうに笑って見せる。蒼早は、よかった、とばかりに息をついた。 「あの」  おずおず、と若葉が切り出す。 「さっき言っていた、シケ、とか、ウラガミって、なんですか?」  その説明が残っていた。  汐吉と沙雪は顔を見合わせる。 「俺が説明する」  汐吉は、自然とそう言っていた。
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