第六章 二.

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「……なんですか?」 「連絡先、教えてくれ」 「……携帯持ってないのに?」 「固定電話くらいある。……これ、店の名刺。電話番号のってるから」 「あ、私も! これ、いつも持ち歩いてるんです。ヒナゲシ会に入る気になったら、ぜひ」 「……来ないよ、そんな日」  二人の名刺を受け取りながらも、若葉は低い声でつぶやく。 「喰代さんは、ヒナゲシ会じゃないのに熱心なんですね」 「……ウラガミ様、だからな」  手放しでほったらかすわけにはいかない、という意味だ。  若葉は、ふ、と小さく微笑み、もらった紙をポケットへとしまう。そのまま、彼は鳥居から外へ出て行ってしまった。  その後ろ姿を見ていた蒼早が、ポツリとつぶやく。 「……ギター、背負ってないね」 「……え?」 「あっ、本当だ」  確か、真菅からの情報によれば“いつもギターを背負っている”とあった。ところが、たった今見送った彼は手ぶらだった。財布等の貴重品がポケットに入っているとしても、いつもとは違うようだ。 「何かあったのでしょうか」 「そうかもしれないな」  沙雪と汐吉が視線をあわせながら会話をする。紅乃と蒼早は、何も言わず若葉の後ろ姿を見送っていた。
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