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第六章 三.
結局、そのあと若葉から連絡が来ることはなく、沙雪・蒼早とも別れた汐吉と紅乃は、喫茶カンテラへの帰路についた。午後七時になっている。
「じゃあ週明け……はシフトじゃないから火曜日か。お疲れ」
そう言って汐吉が紅乃を見送ろうとしたが、彼女は動こうとせず止まったままだ。
「どうしたんだ?」
「夕飯、一緒にどうですか?」
「……どこで」
「駅の近くとか」
すでに王子駅についている。そうじゃない選択肢はないようで、仕方ない、というように汐吉は軽く頭をかいた。
「なんか、今日はいつもより話しかけてくるな」
「……店長は、なんで私を雇ってくれたんですか?」
「どうした、急に」
「……これまで、店長は人見知りだと思っていたんです。でも、今日の店長は、別人みたいだったというか……いつも以上に、生き生きしていた、みたいな」
「……え?」
汐吉は紅乃にそう言われて驚いた顔をする。そんな自覚はなかった。
―生き生き、していた? 万年枯れた植物、いやそれは植物に失礼かもしれない、動かない山のような自分が?
「だから、私の知ってる店長は、店長じゃないのかなって。確かめたいんです、教えてください。どうして私を雇ってくれたんですか?」
「あー……」
彼は困ったように頭をかいた。
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