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「正論で人を叩くのってさぞかし気持ちいいでしょうね。それが暴力だって気付きもしないで」
「……沙雪、ごめん、言いすぎた」
「謝らないで、蒼早くんは悪くない。そうよ、私はいつもドジをするし余計なことを言ってしまう、社会人として失格な人間なの」
「そこまで言っていないだろ!」
部屋に蒼早の大きな声が響く。少しだけ、語尾にエコーがかかったように聞こえた。
「沙雪。僕は、一言も、沙雪が社会人として失格だなんて言っていない。言うことが裏目に出るといっただけだ」
「つまり、余計なことをするなってことでしょ!」
「違う! 裏目に出るから慎重になれって言いたいんだよ! 沙雪は決めたらすぐ行動しちゃうから。言葉も、すぐ出てしまう」
「……ならどうすればいいの? 私が悪いの?」
「沙雪……、……僕は、君を怒鳴りつけた別の誰かじゃない。脳内の誰かに、僕を重ねるのはやめて」
かつての上司。自然と、蒼早と彼を重ねていたことに、それを言われた沙雪は初めて気がついた。
「……やだ、ごめんなさい、私ったら」
「沙雪」
蒼早は座椅子から立ち上がると、沙雪のそばへ行き、しゃがみこむ。
そして、そっと手を彼女の頭の上に置いた。ゆっくり左右に動かし、頭をなでる。
「あ、蒼早くん?」
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