第六章 五.

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「ったく、汐吉、私は暇じゃないんだ」 「とかいって、わざわざここまで来てくれたんだな」  カンテラは今日も営業中だが、常連は誰も来ず、いつもように新聞を読んでいた汐吉のもとへ真菅が顔を見せた。  “布瀬快次について調べてほしい”という連絡をしてから数時間後のことだった。 「布瀬快次についてだったな。調べたが、彼は警察を辞めている」 「え? そうなのか」 「一身上の都合、とのことだ。トラブルがあったとかそういうのは聞いていないが」 「警察をやめるってよっぽど嫌なことでもあったのかもな」 「まあ、そこは正直なところ分からない。一応、住所は控えてきた。いいか、くれぐれも、外部に漏らすなよ。ヒナゲシ会の捜査で必要だというから持ってきたんだ」  真菅はそう釘をさしながら、小さな紙きれをカウンターテーブルの上に置く。  彼のメモ帳の一ページらしい。 「今は警備会社で働いているそうだ。尋ねるなら失礼のないようにしろよ」  その忠告に汐吉は、はいはいと適当な相槌で答えた。 ***
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