85人が本棚に入れています
本棚に追加
「ったく、汐吉、私は暇じゃないんだ」
「とかいって、わざわざここまで来てくれたんだな」
カンテラは今日も営業中だが、常連は誰も来ず、いつもように新聞を読んでいた汐吉のもとへ真菅が顔を見せた。
“布瀬快次について調べてほしい”という連絡をしてから数時間後のことだった。
「布瀬快次についてだったな。調べたが、彼は警察を辞めている」
「え? そうなのか」
「一身上の都合、とのことだ。トラブルがあったとかそういうのは聞いていないが」
「警察をやめるってよっぽど嫌なことでもあったのかもな」
「まあ、そこは正直なところ分からない。一応、住所は控えてきた。いいか、くれぐれも、外部に漏らすなよ。ヒナゲシ会の捜査で必要だというから持ってきたんだ」
真菅はそう釘をさしながら、小さな紙きれをカウンターテーブルの上に置く。
彼のメモ帳の一ページらしい。
「今は警備会社で働いているそうだ。尋ねるなら失礼のないようにしろよ」
その忠告に汐吉は、はいはいと適当な相槌で答えた。
***
最初のコメントを投稿しよう!