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「あっ、はじめまして! 布瀬快次さんのお宅であってますか?」
「あー……? ああ、はい、布瀬だけど」
「私、松浪沙雪と申します。今日はお話したいことがあって来ました」
「勧誘は断ってるんですよ。新聞とかいらないし」
「いえ、ヒナゲシ会という団体のことでお話が」
「オレ、無宗教なんで。南無阿弥陀仏っす」
おそらく、最後の“南無阿弥陀仏”は、“さっさと帰れ”の意味なのだろう。その言葉のあと、通話は切れたようだ。
「布瀬さん、布瀬さーん!」
沙雪が声をはるが、返事がない。
やはり自分にはだめだった、と思う沙雪を見た蒼早が、無言で慰めるように背中を叩いた。人を気遣うことを知らないはずの彼の、わずかな成長だ。
「いい、次は俺がいく」
「お願いします……」
選手交代とばかりにインターホン前の陣形を変えて、今度は汐吉がインターホンを押す。一回、二回、三回。押せど押せど、でない。
しかし諦めるわけにはいかないので、続けて押すこと合計七回目にしてようやく先ほどと同じ男性の声が出た。
「だぁーから、新聞はいらないし無宗教だっていってるじゃないっすか!」
あからさまに不機嫌だ。だが、汐吉はこういうしゃべり方に慣れているためダメージは無い。
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