第六章 五.

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「勧誘は勧誘でも、ヒーローにならないかっていう誘いなんだけど」 「……え?」  明らかに、声色が変わったのがわかった。ここぞとばかりに、汐吉は自己紹介をする。 「俺は喰代汐吉、北区で喫茶店のマスターをしている。警視庁の真菅警視正に住所を教えてもらってここまで来た。元警察のアンタと直接話がしたい。ドアを開けて、あってくれないか?」  数秒、間ができる。  俺もダメか、そう汐吉が思った時、開かないと思われた扉がガチャリという音を立てて開いた。  中から姿を見せたのは、警察官のときよりも多少髪がのびて若くなったようにすら思える青年だった。Tシャツに短パンで、いかにもさっきまで寝ていました、という恰好だが、本人は三人にそんな姿を見せるのは気にしないらしい。 「……なんだ、三人もいんのかよ」  二人だと思っていたのに、と三人の顔を見ながら快次がぼやく。 「ま、狭くてもいいなら、どうぞ」  もう開けてしまったのだから仕方ない、とばかりに、快次はドアスタンドを立てて、どうぞと部屋の中を手で示した。
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