第七章 一.

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「あのとき、オレ、なんにもできなかった。ニュースではオレが捕まえたことになってるけど、本当は先輩なんだ。でも、先輩は……おやっさんは、オレに花を持たせようとして。もうすぐで定年退職するから、そんな自分が捕まえるよりは、って……」  一身上の都合、ということでぼかしていたのは、その“先輩”のことを考えてだったことがすぐに分かった。尊敬している先輩を、辞職の理由にしたくなかったのだろう。これは、彼自身の気持ちの変化なのだから。 「警察をやめたのは、オレは誰も助けられないって、役に立てないって思ったからなんす。ヒーローに幼い頃から憧れてたし、警察官になれたときは嬉しかったすけど……。やっぱり、頭を使うようなこと、オレには向いてない。その、ヒナゲシ会? ウラガミというのも、オレじゃないと思うっす」  ガタイのいい見た目の割には柔らかい言葉を使い、子どものような幼そうな笑い方をする快次の告白に、三人は黙ってしまった。  慰めの言葉はもっとも似合わない。であれば、こういうときは。沙雪は、蒼早を見る。彼はその視線に気が付いて彼女を見た。  蒼早は、口パクで言った。“沙雪が言って”。  彼女はコクリと強くうなずいた。そして、膝の上に作っていた拳に力を入れて自身を励ますようにすると、快次の方を向いた。
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