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「浄化よ、浄化。手をかざせばいいの。どっちの手でもいいから」
「え、えっと……、手をかざす……?」
「黒い煙の上によ、早く! あなたがこの子を抑えられるっていうなら、それでもいいけど」
先ほどから女性は唸りながら眼鏡の女性を振りほどこうと腕を激しく動かしている。
これ以上このままにしておくと面倒なことになる、と勘づいた汐吉は、とりあえずしゃがみこんだ。黒い煙が出ているあたりへ、右手をかざす。黒いものが見えているかを尋ねてきたということは、それが重要であることは彼にもわかっていた。
すると、黒から灰色、灰色から白色へとグラデーションのように煙の色は変わり、やがて霧散して消えた。水品は眠り込んでしまったかのように体勢を崩してしまい、眼鏡の女性が両脇に腕を入れる形でなんとか支える。
「あなたのお店、カンテラっていう名前よね。このあたり?」
「というより、すぐそこです」
「よかった、そこに運んでもいい?」
「ええ、まあ……」
「ああ、そういえば名乗ってなかったわね」
突然現れた女性は汐吉のことを知っている様子であるのに対し、彼は彼女のことを知らないものだから訝しんでしまう。そんな様子を察してか、彼女は水品の腕を自身の肩に回しながらほほ笑んだ。
「今日の二〇時から予約をしていた、松浪です。松浪沙雪」
紅乃の待ち望んでいた、“珍しい”予約客だった。
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