第七章 三.

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――『お父さんもお母さんも稼ぎが少ないから、若葉には大金を稼ぐ大物になってほしくて、大学も行かせているのよ。将来は官僚になってね』  幼いころであれば、元気よく返事をしてそれを了承していただろう。今は違う。全く違う方向に気持ちが傾いていて、そっちへ行きたいのに、母親の影が落ちる。 「全部バレちゃったから、もう路上ライブもできないだろうなあ……」  ベットに寝転がり、お腹の上に手を置いて茶色の天井を見上げる。  去年は水曜日も金曜日も、最後の六時限目まで授業があった。しかし、今年は両方とも四時限目で終わる。つまり、若葉は大学に行っているという名目で空き時間に亀戸天神社へ行っていた。  そうするしかなかった。しかし、それももうできなくなってしまった。  ピコン、と電子音がする。 「ん……?」  メールか何かを受信した音に気が付いた若葉が、手に取る。画面を見ると、フリーアドレスのメールに何かが来たようだ。 「……っ!」  受信欄を開いた彼は、見えたものに驚いて携帯を床へ向かって投げ飛ばしてしまった。カシャン、という音と共に、携帯電話本体がケースから外れ床の上に転がる。
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