第七章 四.

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「おまえっ……、ぁっ」  しかし、館山はあっさりとその手を払いのけた。健康な彼にとって、異様に細くなってしまった若葉の手は非力なものだった。 「きもちわりぃ手でさわんな」  何かがはじけた。  気付いたときには、若葉の右手は彼の左頬を殴り飛ばしていた。 「ってえ!」  後ずさりながら、館山は頬に手をあてる。 「藤枝、いい度胸してんな」 「うるさい、うるさい!」  今度は館山が若葉を殴ろうとしたとき、その腕を華奢な女性の腕がつかんだ。 「っ、な」 「それ以上はやめておきなさい」  眼鏡の奥の瞳は笑っていないが、口元は笑みながら沙雪が言う。
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