第七章 四.

5/6
前へ
/345ページ
次へ
「どうして、ここに……ぼくを、助けに」 「……ヒナゲシ会に入ってほしくて」 「……ぼくは、特別じゃない。能力もない、ヒナゲシ会には入らない」 「それでも、入ってほしいの。助けたのは、単に、ああいう人が嫌いだからよ。少し聞こえちゃったんだけど、ひどいことされていたみたいね」 「……無視すれば、どうにでもなる」 「でも、痛みは消えない」  短い言葉に、地面を見ていた若葉は顔を上げた。真剣な、でも眉尻は下がった沙雪の顔がそこにあった。 「教務課で、休学届を出したって聞いたわ。あんな奴のために、あなたがそんなこと……」 「ぼくはぼくを守ろうとしているだけです。この世のすべてから、なにもかもから……」 ――『かわいそうだなあ、藤枝。俺だけじゃなくみんなから嫌われちまってさ』  嫌われているのだから。 「神社にも、もう行きません。行けなくなったから、だから……」  タイミングがいいのか悪いのか、バスが来る。バス停の前で停車し、若葉はよろよろとバスへ向かう。沙雪は追いかけようとせず、立ったまま。 「藤枝さん。あきらめないでくれるなら、私は協力するから!」  バスに乗り込みながらそれを聞いていた若葉は、彼女をふりかえることも、返事をすることもなく奥の方へと行く。
/345ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加