第七章 四.

6/6
前へ
/345ページ
次へ
「お客さんは乗ります?」 「あ、いえ、私は。すみません」 「はい、では発車しまーす」  若葉を乗せたバスはそのまま走り出す。沙雪はそれを見送ると、背伸びをした。 「……あ……」  席に座った若葉は、床に落ちていたものに気付き拾い上げた。ポケットにしまいっぱなしにしていた、汐吉の店・カンテラと沙雪の名刺だった。  一度視線をそらしたが、自分のものだから拾ってもおかしくない、と思い直し、かがんで二枚を手に取る。 「……あきらめないなら」  今の状況を変えることを、あきらめないのなら。 ―あの人は、本当に協力してくれるのかな。  若葉は名刺を同じポケットにしまいこんだ。
/345ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加