85人が本棚に入れています
本棚に追加
「お客さんは乗ります?」
「あ、いえ、私は。すみません」
「はい、では発車しまーす」
若葉を乗せたバスはそのまま走り出す。沙雪はそれを見送ると、背伸びをした。
「……あ……」
席に座った若葉は、床に落ちていたものに気付き拾い上げた。ポケットにしまいっぱなしにしていた、汐吉の店・カンテラと沙雪の名刺だった。
一度視線をそらしたが、自分のものだから拾ってもおかしくない、と思い直し、かがんで二枚を手に取る。
「……あきらめないなら」
今の状況を変えることを、あきらめないのなら。
―あの人は、本当に協力してくれるのかな。
若葉は名刺を同じポケットにしまいこんだ。
最初のコメントを投稿しよう!