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「二〇時になってもいらっしゃらないから、何かあったのかと心配してました」
「ごめんなさいね。あの子があんなだから、フフ」
どうやら隠す方向でいくらしい。汐吉と話すと言っても、周囲に他人がいる状況で話せるのだろうか。そう考える汐吉をよそに、沙雪は楽しげに話をしている。
「紅乃、持っていってくれ」
「はい!」
カウンターに置かれたコーヒーカップをトレイにのせて、沙雪のテーブルまで運ぶ。
「失礼いたします、ドリップコーヒーになります」
「ありがとう」
お辞儀をして亜子のテーブル近くへ行く紅乃と入れ替わるように歩いてきた汐吉は、エプロンの紐を緩めて軽く握ってひっぱると、シャツにパンツというどこにでもいるような会社員の服装になった。
「話というのは、ここでしてもいいのか?」
「ダメだと言ったところで、どうにかしてくれるの?」
他の客を追い出すわけにはいかないし、紅乃を外へ出しておくわけにもいかない。どうにもできないことを知っていながら聞いてきた沙雪のことを、性格が悪いと汐吉が感じるのも無理はなかった。
「できないな」
「ならこのままで」
仕方なさそうに、汐吉は小さくため息をつくと沙雪と対面する形で反対側に座った。
店内に音楽は流れていないため、会話も他人に聞こえるには聞こえるが、侑斗はイヤホンをして音楽を聞きながら小説を書いているし、紅乃と亜子は話をしており、意識しなければ三人の話を聞ける状況ではない。
汐吉はそのことを考慮したうえで、ゆっくりとした口調で切り出した。
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