第八章 一.

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 電話を切った汐吉は一度自室へ戻ると、とりあえず手近にあった服をつかみ着替える。そうしてバタバタと駆け降り、店の入り口へ向かうと鍵をあけて開いた。 「おはよう、待たせて悪いな」 「いえ……」  若葉は律義にお辞儀をする。やはり、今日もギターは持っていないようだった。 「すみません、朝から」 「いや、いいよ。どうぞ」 「ありがとうございます」  若葉を店内に入れるものの、オープンにするわけにもいかないので、ドアにかけているクローズにしたプレーンは変えないまま彼に続いて店内に入る。 「好きなところ座れよ」 「なら、カウンターでもいいですか」 「ああ」  若葉はカウンター席全体を見ると、真ん中に座った。汐吉はカウンターの中へ入り、エプロンをつける、慣れた手つきでカップとお皿を取り出す。 「こんな格好で悪いな」 「いえ。それ、部屋着ですか?」 「ああ、服を全部洗濯してなくて良かったよ。朝食は?」 「まだです」 「コーヒーでいいか」 「作ってくれるんですか?」 「ここは喫茶店だぞ? 簡単なのならできる」  もっとも、モーニングセットみたいなものはなく、軽食は簡単なものしか用意できない。だが、食パンをトースターにかければトーストはできるし、ミニサラダも野菜を切れば作れる。
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