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沙雪は汐吉の両親のことを完全に知っているわけではない。話していないのだから当然である。だが、同じ理由で迷っているのではないかと推測していたのかもしれない。
「喰代さんが、ウラガミ様なのに入らないのはどうしてですか?」
「……俺はな。本当に自分に能力があるのか、迷っているんだ。ある日、松浪さんがここに来て、ヒナゲシ会に入ってくれっていうんだ。俺には死気っていうのを浄化させられる力があるらしい。今だからわかるけど、親父は死気に憑りつかれていたんだろうな。お袋を殺しちまったんだ。そんで、お袋につきまとっていた男も殺した」
言えば言うほど、空気が重くなるし、あの記憶も蘇ってくる。息苦しさで死にそうなほどに。
「死気が本当にあるのかも疑っていた。なんでそんなものがあるのかも知らないし、浄化できなければ解決しない。そんなファンタジーがあってたまるか、冗談じゃないって……、それが本当なら、俺は親父を、お袋を助けられたのに殺してしまったことになるだろ」
そう、その流れでいくならば、両親を殺したのは汐吉ということになる。
だからこそ、悔やんでいたし戻れるならあの日に戻りたい。だが、時間は進むことはあっても後退することはない。時計の針は、右に回る。
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