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「病気なら治ってほしいって願いました。……病院の先生には、うつ病だって……、休学することにしたけど、母には話していないんです。だって、きっと怒られる、下手したら殺されるかもしれない。それくらい、ぼくに執着しているし、怖くて……家に帰っても気が気じゃない。だから、いっそ……死にたいって」
―死にたい、か。
それは、嘘でも何でもなく、本音なのだろうと理解できた。泣いてもいいのに、懸命に涙をこらえている。感情を出してもいいのに、我慢をする。汐吉は、この前の自分を見ているような気持になった。
「……藤枝さん。ちょっと、ひどいこと言うかもしれません」
「え……?」
「俺は……、藤枝さんが死にたいっていうなら止めない。自殺するっていうならそれも。俺はアンタじゃないし。死にたいなら死ねばって思う」
松浪さんが聞いたら怒りそうだけど、というクッション代わりの言葉も念のために挟む。
「けど」
汐吉はロートを取り外し、コーヒーカップを手元へ引き寄せる。気付けば、きれいにドリップされたコーヒーがフラスコの中でゆらめいていた。
「死ぬって簡単じゃないんだ。楽になるための方法じゃないんだよ。事故とか、本人がどうしようもないことならともかくさ……。死なないっていう選択肢を選べる判断力を失ってる状態にさせたやつが一番悪いんだよ。アンタじゃない」
コーヒーカップの中に、派手な音を立てず、するするとコーヒーがそそがれる。
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