第八章 二.

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「死にたいと思う人が悪いんじゃない」  どうぞ、と彼の鋭い視線と、それには不釣り合いな気遣うように優しく動かされるソーサーに乗ったコーヒーカップがコトンと若葉の前に置かれた。  コーヒーからは湯気がのぼっている。よく考えれば、夏が終わったっていう頃なのにホットコーヒーっていうのも馬鹿らしい。まだ暑さは残っているのに、自分から暑くなりにいってどうするのだ。  そんな思いとは裏腹に、若葉のうつむいた顔からポタポタと雫が落ちた。 「……っ、う、え、ぐっ……」  だから、この涙は、あまりにも暑くて、コーヒーの湯気がしみただけなんだ。 「誰が藤枝さんを泣かせてるんだ。追い込んだのは誰なんだ」 「うっ、ひく……、どうきゅ、せい……」 「同級生?」 「あと、は、ははお、母親が……」 「ああ、さっきのか……」 ―同級生と母親。外も中も敵ということか。
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