第一章 四.

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「それで、用件は」 「はい。私の名前は松浪沙雪といいます。喰代汐吉さんを、スカウトしに来ました」 「……スカウト?」 「はい!」  紅乃みたいに、沙雪もまた明るくうなずく。しかし、急にいわれても、汐吉は怪しい人を見るような目つきになった。 「うさんくさい。名乗っていないのに、俺の名前も知ってるし」 「それは教えていただいたからです」 「スカウトって何に?」 「私が所属している組織、ヒナゲシ会のことです」 「……ヒナゲシ会、ですか」  聞き覚えのない言葉ゆえに、繰り返してしまう。沙雪は真剣な表情で頷いた。 「東京十社のことは、ご存知ですか?」 「東京十社……、いや。紅乃なら分かるかも知れないが、俺は何も」 「いえ、全然。知らなくてもおかしくないです。最初から説明させてもらいますね。えっと……、この地図を見てください」  沙雪は鞄の中からおもむろに紙を取り出した。広げられたそれは、東京都の地図だ。赤い印が十箇所についている。そう、以前、少年―蒼早―と話をしながら書いていたものだ。 「東京十社は、この印がある場所になります。ここは王子神社が近くですよね」 「ああ」 「この他には、根津(ねづ)神社、神田(かんだ)神社、日枝(ひえ)神社、亀戸天神社(かめいどてんじんしゃ)白山(はくさん)神社、品川(しながわ)神社、富岡八幡宮(はちまんぐう)氷川(ひかわ)神社、芝大神宮(しばだいじんぐう)があります」  沙雪は胸ポケットから取り出したボールペンで、それぞれを指し示していく。なるほど、王子神社を含めて“十社”だ。
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