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「それで、用件は」
「はい。私の名前は松浪沙雪といいます。喰代汐吉さんを、スカウトしに来ました」
「……スカウト?」
「はい!」
紅乃みたいに、沙雪もまた明るくうなずく。しかし、急にいわれても、汐吉は怪しい人を見るような目つきになった。
「うさんくさい。名乗っていないのに、俺の名前も知ってるし」
「それは教えていただいたからです」
「スカウトって何に?」
「私が所属している組織、ヒナゲシ会のことです」
「……ヒナゲシ会、ですか」
聞き覚えのない言葉ゆえに、繰り返してしまう。沙雪は真剣な表情で頷いた。
「東京十社のことは、ご存知ですか?」
「東京十社……、いや。紅乃なら分かるかも知れないが、俺は何も」
「いえ、全然。知らなくてもおかしくないです。最初から説明させてもらいますね。えっと……、この地図を見てください」
沙雪は鞄の中からおもむろに紙を取り出した。広げられたそれは、東京都の地図だ。赤い印が十箇所についている。そう、以前、少年―蒼早―と話をしながら書いていたものだ。
「東京十社は、この印がある場所になります。ここは王子神社が近くですよね」
「ああ」
「この他には、根津神社、神田神社、日枝神社、亀戸天神社、白山神社、品川神社、富岡八幡宮、氷川神社、芝大神宮があります」
沙雪は胸ポケットから取り出したボールペンで、それぞれを指し示していく。なるほど、王子神社を含めて“十社”だ。
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