第八章 二.

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「やっぱりやめます、とか言わないな?」 「……言いません。男に二言はありません!」  先ほどとは違い、目つきがきりっとして口元は笑んでいる。 ―変わろうと思えば、こんなにも変われる。 「なら、これからよろしく。藤枝さん」 「はいっ、喰代さん!」  感動的な挨拶のはずだが、汐吉はコーヒーカップに目を落とした。 「コーヒー冷めてないか?」 「え、あっ……」 「淹れなおす、待ってろ」 「の、飲みますよ! 冷めててもおいしいじゃないですか!」 「捨てないよ、俺が飲む」 「え!?」  さすがに自宅でもないのに、流しにザバァと捨てるわけにはいかない。 「サラダとかトーストはどう、食べられそうか」 「……喰代さんと話しつつなら」  ゆっくりなら食べられる、という意味だ。 「分かった。とりあえずコーヒー淹れなおそう」 「ぼくのせいで、すみません……」 「気にするな。松浪さんにも連絡しないとな」  若葉のこと、自分のこと。ヒナゲシ会に入ることを決めた、亀戸天神社と王子神社のウラガミ様。  汐吉は沙雪に蒼早、快次の顔を思い浮かべながら満足げにうなずいた。
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