第八章 三.

4/5
前へ
/345ページ
次へ
 汐吉は店の電話から沙雪の携帯へ電話をかけた。家にいるかどうかは分からないからだ。  しばしの発信音のあと、彼女の声が聞こえた。 『はい、松浪です』 「ああ、もしもし。喰代だ」 『あ、お疲れ様です! どうしました?』 「どうしたもこうしたもあるか、藤枝さんにうちに行けって言ったんだってな」 『ということは、来てくれたのね、藤枝さん』  全く悪びれることなく、むしろ嬉しそうである。 「そうなんだけど。藤枝さん、ヒナゲシ会に入るって」 『え!? 本当ですか! やったあ!』 「あと俺も」 『……え? もう一回言って』 「ぁあ?」 『幻聴じゃないことを確かめたいのよ、ね、お願い。これまで何回かフェイントされてるし』 「……俺も、ヒナゲシ会に入るって言ってるんだよ」 『まあ!! 蒼早くん、蒼早くん!!』  その大きな声は、若葉にも聞こえるほどだ。思わず二人は苦笑いを浮かべる。年長のはずの沙雪のはしゃぎようが、幼稚園児並みだった。  蒼早の名前を呼んでいるということは、どうやら家にいるらしい。
/345ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加