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亜子だけじゃない、巫女服の少女も、黒い煙を身にまとっていた。これまで見たような、どこか一部分にではなく、からだ全体にまとっている。まるで、ベールのような。黒い煙に守られているような。
「店長、亜子ちゃんが、あの人と言い争いになっちゃって……」
「あの人、って……」
「――……ワタシ ハ スサキアマメ……」
しゃべった。
赤い瞳に黒い煙、死気にとりこまれた人は必ずその姿になっていたし、人間の言葉は話さなかった。だが、巫女はカタコトには近いものの、言語をはなしている。スサキアマメ。そう、品川神社でアルバイト巫女をしている洲崎天芽、その人だ。
「あ、あのう……」
「ああ?!」
「ひっ……、あ、あの、説明させてくださいっ……」
怖い顔をする汐吉に怯えながらも、必死に声を出す。
「私は雑誌編集者の明坂瑞樹といいます。今日はあの、洲崎天芽ちゃんという女の子の撮影でここに来ていて……」
「スサキアマメ ハ カミノコ」
「こんな風に意味の分からないことをいいはじめたんですぅ!」
瑞樹は困り果て、汐吉にすがるようにそばに近寄る。亜子の赤い瞳から出る黒い煙は、どんどん多くなっている。
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