第八章 四.

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 亜子だけじゃない、巫女服の少女も、黒い煙を身にまとっていた。これまで見たような、どこか一部分にではなく、からだ全体にまとっている。まるで、ベールのような。黒い煙に守られているような。 「店長、亜子ちゃんが、あの人と言い争いになっちゃって……」 「あの人、って……」 「――……ワタシ ハ スサキアマメ……」  しゃべった。  赤い瞳に黒い煙、死気にとりこまれた人は必ずその姿になっていたし、人間の言葉は話さなかった。だが、巫女はカタコトには近いものの、言語をはなしている。スサキアマメ。そう、品川神社でアルバイト巫女をしている洲崎天芽、その人だ。 「あ、あのう……」 「ああ?!」 「ひっ……、あ、あの、説明させてくださいっ……」  怖い顔をする汐吉に怯えながらも、必死に声を出す。 「私は雑誌編集者の明坂(あけさか)瑞樹(みずき)といいます。今日はあの、洲崎天芽ちゃんという女の子の撮影でここに来ていて……」 「スサキアマメ ハ カミノコ」 「こんな風に意味の分からないことをいいはじめたんですぅ!」  瑞樹は困り果て、汐吉にすがるようにそばに近寄る。亜子の赤い瞳から出る黒い煙は、どんどん多くなっている。
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