第九章 一.

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「よし……って、全身にまとっている場合、手はどこにかざしたらいいんだ?」  本来は、死気が出ている箇所に手をかざせばいいと沙雪に教わっていた。全身となるとどこでもいいのであろうか。と迷っていると、蒼早が珍しく大声で彼の名を呼ぶ。 『喰代、喰代ー!』  画面が空になり慌てたようだ。若葉が落ちていた電話を拾い上げ、汐吉の方へ向ける。 『ああ、藤枝、ありがとう。喰代、全体のときはね、抱きしめるんだよ』 「はぁ!? おい、ふざけんな」 『ふざけてないよ』  照れと慌てから思わず言葉が荒くなるが、蒼早は平常心のようだ。いや、多少はからかう気持ちもあるだろう。 『どうしても手をかざしたいなら頭からつま先まで順番に手をかざしたら? 手を離しても彼女が大人しくしてくれるならいいけどね』  蒼早の言い方は不機嫌そうだ。手を離せば移動範囲の効果は消えることとなり、このまま暴れそうである。そうなると、拘束でもしない限りは大人しくしないだろう。ますます、沙雪と蒼早がこの場にいないことが悔やまれる。 「やります!」 「え?」  途端にそういって天芽の両脇に背中から腕を突っ込んで羽交い絞めのようにしたのは、先ほどまで怯えていたはずの瑞樹だった。
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