第九章 二.

1/5
前へ
/345ページ
次へ

第九章 二.

『馬鹿なこと考えないで』 「蒼早……」  何もできない自分に対して自己嫌悪の念を抱きそうになる彼に、蒼早が冷たくもあたたかい言葉をかける。 『藤枝、君の出番だよ』 「え、ぼく?」 『藤枝は亀戸天神社のウラガミ様だ。能力は“傾聴”、死気に憑りつかれた人の声を聞くことができる』 「声を聞くって、でもこの人は意識が」 『話すことじゃなくて、声を聞くんだ。ここからは沙雪にかわるよ、はい』 『もしもし、“傾聴”の発動方法について言うわね。女の子と額を合わせて』 「……おでこを?」 「は?」  若葉は不思議そうに自分のおでこを視線で見上げ、汐吉は先ほどの“抱きしめる”を思い出し戸惑うように一言だけ発する。 『おでこ。心臓あたりに耳をあてるのもいいけど』 「……おでこにします」  亜子は女の子で、若葉は男の子だ。そう、つまり、事情を知らない人から見たら―緊急時なのだからそういったためらいは本来は邪魔なだけだ―怪しまれる。
/345ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加