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第九章 二.
『馬鹿なこと考えないで』
「蒼早……」
何もできない自分に対して自己嫌悪の念を抱きそうになる彼に、蒼早が冷たくもあたたかい言葉をかける。
『藤枝、君の出番だよ』
「え、ぼく?」
『藤枝は亀戸天神社のウラガミ様だ。能力は“傾聴”、死気に憑りつかれた人の声を聞くことができる』
「声を聞くって、でもこの人は意識が」
『話すことじゃなくて、声を聞くんだ。ここからは沙雪にかわるよ、はい』
『もしもし、“傾聴”の発動方法について言うわね。女の子と額を合わせて』
「……おでこを?」
「は?」
若葉は不思議そうに自分のおでこを視線で見上げ、汐吉は先ほどの“抱きしめる”を思い出し戸惑うように一言だけ発する。
『おでこ。心臓あたりに耳をあてるのもいいけど』
「……おでこにします」
亜子は女の子で、若葉は男の子だ。そう、つまり、事情を知らない人から見たら―緊急時なのだからそういったためらいは本来は邪魔なだけだ―怪しまれる。
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