第九章 二.

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 自分にも歌えるかもしれない。そう思って、ギターを買ってはじめたのが最初。  注目されるようになると、館山のような人も出始めて。はじめは、それを無視してやっていたのに、無視できなくなった。 ―ぼくは、ぼくの声を聞いていなかったんだ。 「……松浪さん」 『はい?』 「ぼく、母に話をつけます。あの家を出る。休学届も取りやめて、なんとか通います。……ヒナゲシ会にいるウラガミ様として、ぼくは、ぼくの声を大事にしたい。歌いたいんです」  家に置きっぱなしにしてしまっているギターと一緒に。 『……うん。賛成よ。あ、そうだ、藤枝さんもここに住んじゃえば?』 「……ここ?」 『私、蒼早くんと一緒に大きなお家に住んでいるの。部屋はまだあるし、よかったら。それも含めてさ、またお話しましょ』 「……はい」  無視できなかった、すべきでなかった声に耳を傾けたとき。  はじめて、前進できた気がした。
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