第九章 四.

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 両手で渡すという暗黙のルール、いやマナーを無視し、片手で出してきたそれを汐吉は受け取る。 「……喰代汐吉、喫茶店のマスター。また電話します。これ店の名刺です」 「はい、どーも」  興味なさげにしながらも、彼女は一応受け取った。 「では、今度こそ私はこれで。会うのはいいですが、明日は忙しいので、明後日以降でお願いしますね」  “明日は忙しい”を強調するように言うと、ふん、と怒った様子でヒールの音を鳴らし廊下を歩いて行ってしまった。 「……汐吉。相手を挑発してはいけないだろう」 「うるせえよ。アイツが悪いんだ」  汐吉も汐吉で、拗ねたようにそっぽを向いてしまう。まるで好きな餌を直前で取り上げられた猫のような姿に、真菅は呆れながらも笑みをこぼした。すぐに表情をいつものポーカーフェイスに戻したが。 「……まぁいい。和氣さん」 「あ、はい!」 「金崎さんは明日退院だが、来てくれるか? 母親が来てくれることにはなっているんだが、君もいれば安心するだろうから」 「それはもちろん、大丈夫です」 「よかった、お願いしよう」
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