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両手で渡すという暗黙のルール、いやマナーを無視し、片手で出してきたそれを汐吉は受け取る。
「……喰代汐吉、喫茶店のマスター。また電話します。これ店の名刺です」
「はい、どーも」
興味なさげにしながらも、彼女は一応受け取った。
「では、今度こそ私はこれで。会うのはいいですが、明日は忙しいので、明後日以降でお願いしますね」
“明日は忙しい”を強調するように言うと、ふん、と怒った様子でヒールの音を鳴らし廊下を歩いて行ってしまった。
「……汐吉。相手を挑発してはいけないだろう」
「うるせえよ。アイツが悪いんだ」
汐吉も汐吉で、拗ねたようにそっぽを向いてしまう。まるで好きな餌を直前で取り上げられた猫のような姿に、真菅は呆れながらも笑みをこぼした。すぐに表情をいつものポーカーフェイスに戻したが。
「……まぁいい。和氣さん」
「あ、はい!」
「金崎さんは明日退院だが、来てくれるか? 母親が来てくれることにはなっているんだが、君もいれば安心するだろうから」
「それはもちろん、大丈夫です」
「よかった、お願いしよう」
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