第九章 四.

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 そう話す二人の横を通り抜け、若葉がここに来て初めて声を出す。 「汐吉さん、汐吉さん」 「なんだよ」 「ぼく、松浪さんと鹿占さんの家に住まないかって話になったって、いいましたよね」 「ああ、そうだな」  亜子と天芽が搬送されたこの病院に向かう途中、沙雪からそういう提案をされたのだと言っていた。 「よかったら、そのときに話してみますよ。あの人のこと。そうしたら、話がスムーズに進むかも」 「そうだな。実は、電話するのあまり好きじゃないから助かる」 「はい。あ、でも、最終的には電話で確認すると思いますよ」 「それはそれでいい。あと、アドバイスがひとつ」 「はい?」 「鹿占蒼早っていう名前の奴は、名字で呼ぶと何されるか分からないから、蒼早って名前で呼んだ方がいい。俺も初対面のとき、名字で呼ぶなって言われた」 「わ、分かりました」  コクコク、とうなずく若葉がまるで弟のように思えてきた汐吉は、やっと表情をゆるめる。  少しずつ、確実に。ヒナゲシ会の仲間は増えていっている。
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