第十章 一.

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「すみません、ぼく、大学であまり人としゃべらないようにしてて……、家は、あ、家のこと二人にお話しましたっけ?」  家でも話さない、と言おうとして、特殊な――込み入った家庭事情のことを踏まえて聞いてもらおうと思い確認すると、二人ともうなずいた。 「喰代さんから、大体聞いているわよ」 「僕は沙雪から聞いたけど、又聞きって信ぴょう性低いからね。若葉から話してくれた方が助かるな」 「わ、分かりました」  沙雪が荷物を置いて、座るように床をぺしぺし叩く。それにうなずき、二人の近くに座った若葉は、母親のことを話し始めた。 ***  一通り聞き終えた蒼早は、見るからにげんなりとした顔になっていた。 「上には上がいるんだね」 「蒼早くんのお父さんよりすごいわねぇ」 「しかじ」 「蒼早」  鹿占、と言おうとした若葉の言葉をすぐに遮る。汐吉にされたアドバイスを思い返した彼は、無言でうなずいて言い直した。 「……蒼早さんの、お父さんも結構すごいんですか?」 「まぁ……。あれ、鹿占って聞いたことない? 鹿占春砂」 「しかじめはるさ……。えーと、政治家……とか、ですか」  聞いたことがないのか、自信がなさそうに尋ねる。
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