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「テレビ見ない?」
「あんまり。母とは話した通りなので、あまり顔を合わせたくなくて、部屋に引きこもっていたから……」
「へえ。父のことを知らない人がいるんだ。あの人もまだまだじゃん」
そういいながらも、どこか嬉しそうだ。
若葉にとって“鹿占”は “あの鹿占家”とはならないことが、新鮮だった。汐吉ですらも、名前は知っていたのだから。
「そのお母さんがよく許してくれたわね? 出てくるとき、大変じゃなかった?」
「ああ、はい。父が……、味方をしてくれて」
「あら! それはよかったわね」
「はい。ずっと知らないで苦しめていてすまなかった、って」
――『私が許可するから、気にせず行きなさい。住所を教えてくれれば、荷物を送るから』
病的に息子を拘束する妻のことを、ようやく知った彼が、若葉の背中を押した。
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